金融大手が手がける暗号資産:金融の未来がやってきた | CoinDesk JAPAN(コインデスク・ジャパン)

「クリプトイヤー」とは、通常7年かかるイノベーションを1年に凝縮したものだとよく言われる。「ドッグイヤー(犬の1年)」のようなものだ。

とはいえ、大手金融機関がイノベーションを採用する際、クリプトイヤーで動くことはない。彼らは舞台裏でテストし、時間をかけて開発する。そして今、そのようなプロジェクトが花開きつつある。

直近の話題は、世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)が、米国債に裏付けられたブロックチェーンベースのトークン化ファンド(BUIDL)をパブリックブロックチェーン上で立ち上げたことだ。

フランクリン・テンプルトン(Franklin Templeton)、ハミルトン・レーン(Hamilton Lane)、ウィズダムツリー(WisdomTree)などの金融大手も、米国の1940年投資会社法に準拠する「40 Actファンド」をトークン化している。

KKR、アポロ(Apollo)、ハミルトン・レーンはプライベート・エクイティ・ファンドもトークン化している。レポ市場のトークン化とコスト削減はJPモルガンが行っている。ソシエテ・ジェネラル(Societe Generale)、HSBC、欧州銀行はトークン化債券を発行している。これらは、ほんの一部に過ぎない。

シティ(Citi)、ウィズダムツリー、ウェリントン(Wellington)のプライベート・マーケットにおけるコラボレーションのように、多くの概念実証(PoC)が行われている。

シンガポールの規制当局が進める「プロジェクト・ガーディアン(Project Guardian)」は、ウェルス・マネジメントに革命を起こすために、多数の銀行と取引相手を集めている。

DTCC、SWIFT、ブラックロック、バークレイズ(Barclays)、JPモルガン、シティ、バンガード(Vanguard)など、多くの金融機関が決済とクリアリングの実験を行っている。リストはもっと多岐にわたるが、イメージはつかめただろう。

ブロックチェーンテクノロジーと暗号資産の活用により、資本市場の効率化が進んでいる。これは一過性の流行ではない。

以下の2つの重要なユースケースを紹介しよう。

  • デジタルマネーまたはステーブルコイン
  • 「現実資産」(RWA)と呼ばれる伝統的な投資機会のトークン化

ステーブルコイン

ステーブルコインは通常、通貨または安定した資産のバスケットに裏付けられて「ステーブルな(安定した)」価値を持つように設計された暗号資産(仮想通貨)のことだ。

資本市場の基幹は通貨であり、ステーブルコインは通貨のデジタル版だ。ステーブルコインは、他の暗号資産と同様に、後日の決済やフロート(送金や預け入れられた資金が利用可能になるまでの期間)はなく、所有権が即座に移転する。プログラムも可能だ。ステーブルコインの時価総額は1570億ドル(約24兆円、1ドル155円換算)にのぼる。

法定通貨への依存は、クレジットカードの普及やデビットカード、モバイルウォレットへの移行以来、大幅に減少している。アメリカの2023年の小売店頭では、現金決済はわずか12%に過ぎない。

ほとんどの銀行振り込み、給与支払い、請求書などは、大量の100ドル札や金の延べ棒ではなく、銀行と口座の間を移動する一連の数字だ。あなたは現金を手元にいくら持っているだろうか?

さらに重要なことは、金融市場はグローバルなことだ。ステーブルコインは、24時間365日の取引への扉を開く。ステーブルコインに対する金融機関からの関心は、決済、財務管理、国境を越えた決済で際立つ。

米連邦準備制度理事会(FRB)は即時決済サービス「FedNow」を銀行に提供しているが、これは送金のフロート期間が問題であることを浮き彫りにしている。

このサービスには賛否両論があり、ステーブルコインのようなプログラム可能な柔軟性はない。FRBと財務長官は、デジタル資産となる中央銀行デジタル通貨(CBDC)を検討している。

JPモルガンは、預託証券に裏打ちされた内部ステーブルコイン「JPMコイン」を手がけており、同行内での支払い送金や決済に利用できる。JPMコインの取引高は1日10億ドルに達し、2023年にはレポ取引で2000万ドルのコスト削減が報告されている。

ソシエテ・ジェネラルはユーロ建てのステーブルコイン「SG-FORGE」をローンチした。これはパブリックブロックチェーン上にあり、取引所のビットスタンプ(BitStamp)で入手できる。

ペイパルは昨年、4億3500万人の顧客に向けてステーブルコイン「PUSD」をローンチし、ステーブルコインとビットコインの交換や小売店での買い物の支払いを可能にした。間もなく、国境を越えた決済も可能になるだろう。

フィギュア・テクノロジーズ(Figure Technologies)は、1トークンあたり0.01ドルの金利付きステーブルコインを発行している。このステーブルコインはKYC/AMLホワイトリストと米証券取引委員会(SEC)の承認を必要としている。この仕組みは、米国債に裏打ちされた低ボラティリティのトークン化証券であるArCoinをして発行しているArca U.S. Treasury Fundに似ている。

最近、米国の議員によってステーブルコイン規制法案が提出され、ステーブルコインの1対1での金融的裏付けと、アルゴリズム型ステーブルコインの禁止が求められている。今後の動きを注視していきたい。

BUIDLの開発

世界最大の資産運用会社がファンドのトークン化を開始したことで、市場はさらに注目し始めている。トークン化とは、資産や商品をデジタルで表現したものを発行することだ。

2018年以来、暗号資産の世界で語られてきたことを、機関投資家が現実のものとして作り上げていることはエキサイティングなことだ。最初の大きな一歩は、40 Actファンドのトークン化だった。

トークン化された米国債ファンドは10億ドルを突破した。フランクリン・テンプルトンは、同社の40 Actファンドが「セキュリティの向上、取引処理の迅速化、コストの削減など、ブロックチェーン統合システムの利用による運用の効率化を続けており、ファンドのシェア保有者に利益をもたらしている」と報告している。

トークン化された債券は、規制の不透明性から米国外でより普及している。HSBCは4つの異なる通貨で発行された6000億香港ドルの国債をトークン化した。

このネイティブデジタル債券は、決済時間を5日から1日に短縮している。格付け会社のムーディーズ(Moody’s)は、トークン化された債券を数多く評価し、正当性を与えた。

トークン化された住宅ローンも米国で登場している。この分野での最大手は、住宅担保ローンの一種であるホームエクイティ・ライン・ オブ・クレジット(HELOC)や住宅ローンをトークン化するだけでなく、格付け証券のトークン化も行っているフィギュア・テクノロジーズ(Figure Technologies)だ。

同社はまた、19.3兆ドル規模の米国住宅ローン市場においてMERS(住宅ローン電子登録システム)が独占している現状を打破するため、担保権と電子手形の両方のレジストリであるDARTシステムを立ち上げた。

シティやゴールドマンを筆頭に、投資銀行までもが顧客にトークン化サービスを提供している。そして、これはほんの始まりに過ぎない。

金融機関はデジタル資産をトークン化した商品を開発し、提供している。資本市場や金融機関にとって、ブロックチェーンテクノロジーのメリットは無視できない。古い銀行技術インフラをアップグレードすることと同じように、変化は困難だ。しかし、これが金融の未来だ。

アネリス・オズボーン(Annelise Osborne)氏:CoinDesk主催の暗号資産カンファレンス「Consensus 2024」のスピーカー。著書『From Hoodies to Suits: Innovating Digital Assets for Traditional Finance』は6月に発売予定。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Conny Schneider/Unsplash(CoinDeskが加工)
|翻訳:機関デジタル資産: 金融の未来がここにあります